RPA から AI RPA への切り替え手順:棚卸しから定着まで
RPA を入れて数年がたち、ロボットの数は増えたのに、止まるたびに直す手間も増えている。作った担当者はもういない。ライセンスの更新時期も近い。そうしたときに「止まりやすいロボットを AI RPA に切り替えたい」という相談が増えます。
切り替えで一番大切なのは、すべてを一度に置き換えないことです。RPA が得意な業務は残し、止まりやすく、止まったときの影響が大きいロボットから順に移します。この記事では、WinActor、UiPath、Power Automate、BizRobo! などで作ったロボットを、AI が画面を読んで操作する AI RPA に移す手順を、棚卸しから切り替えの後片付けまで順に解説します。
ロボットが画面の変更で止まる理由は「RPA が画面変更で止まる理由と、止まりにくい自動化の作り方」で、製品ごとの事情は「RPA の課題」の製品別ガイドで整理しています。
移行を考え始めるきっかけ
- ロボットが止まる回数と、直すのにかかる時間が増えてきた
- ロボットを作った担当者が異動・退職し、中身がわからない
- ライセンスの更新や価格の改定が近い
- 業務の手順が変わり、ロボットが実態に合わなくなった
- 監査や内部統制で、ロボットの管理状況を説明する必要が出てきた
全体の流れ
| ステップ | やること | 成果物 |
|---|---|---|
| 1. 棚卸し | 動いているロボットを洗い出し、止まった回数などを集める | ロボットの一覧(台帳) |
| 2. 仕分け | 廃止・公式連携・RPA に残す・AI に移す、に分ける | 仕分けの結果 |
| 3. 優先順位 | 止まりやすさと影響で、移す順番を決める | 移す順の一覧 |
| 4. 書き直し | シナリオを、業務の言葉の手順に書き直す | 新しいワークフロー |
| 5. PoC | 1〜3 件で、本番と同じ画面とデータで確かめる | 成功基準に対する結果 |
| 6. 並行稼働 | 古いロボットと並べて動かし、結果を突き合わせる | 差異の記録 |
| 7. 切り替え | 新しいほうに切り替え、古いロボットを片付ける | 更新した台帳 |
| 8. 定着 | 社内で直せる体制を整え、次の業務に広げる | 運用のルール |
ライセンスの更新日がある場合は、そこから逆算して、PoC と並行稼働の期間を確保します。並行稼働には、少なくとも月末などの繁忙期を 1 回含めるのが安全です。
ステップ 1:ロボットを棚卸しする
動いているロボットを一覧にし、次の項目を集めます。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 業務の内容 | 何の業務を、何のために自動化しているか |
| 担当 | 業務の担当部門と、ロボットを直せる人 |
| 頻度と件数 | 毎日・毎月など実行の頻度と、1 回あたりの件数 |
| 操作するシステム | 社内か社外か、Web かデスクトップアプリか |
| 止まった回数 | 直近半年に止まった回数と、直すのにかかった時間 |
| 公式の連携 | API、CSV のダウンロード、データ連携の有無 |
| 判断の有無 | 人が判断している、または判断すべき箇所があるか |
| 止まったときの影響 | 業務が遅れるか、取引先や顧客に影響するか |
止まった回数と直した時間は、記録がなければ担当者の記憶でかまいません。正確さより、ロボットどうしを比べられることが大切です。この一覧はそのままロボット管理台帳の土台になります。項目と書き方は「RPA のロボット管理台帳の作り方」にまとめ、Excel のテンプレートも用意しています。
作った人がいないロボットの調べ方は「作った人がいない RPA ロボットの引き継ぎ方」で解説しています。
ステップ 2:ロボットを 4 つに仕分ける
| 仕分け | 向いているロボット |
|---|---|
| 廃止する | 使われていない、業務がなくなった、手作業で十分な件数しかない |
| 公式の連携に置き換える | 相手のシステムに API、CSV のダウンロード、データ連携が用意されている |
| RPA のまま残す | 画面がほとんど変わらない社内システムで、決まった操作を大量・高速に繰り返す |
| AI の画面操作に移す | 社外の Web システムを操作する、画面がよく変わる、例外や判断が多い |
画面操作の自動化は、ほかの方法がない業務の最後の手段です。公式の連携があるなら、そちらが変更に強く、速く、確実です。
ステップ 3:止まりやすさと影響で順番を決める
「AI の画面操作に移す」に分けたロボットに、次の 3 つの観点で 1〜3 点をつけ、掛け合わせた点数の高い順に移します。
| 観点 | 1 点 | 2 点 | 3 点 |
|---|---|---|---|
| 止まりやすさ | 半年に 1 回以下 | 2〜3 か月に 1 回 | 毎月のように止まる |
| 止まったときの影響 | 後で処理すれば済む | 社内の業務が遅れる | 支払や顧客・取引先に影響する |
| 直すのにかかる手間 | 社内ですぐ直せる | 直せる人が限られる | 直せる人がいない、外部に頼んでいる |
例えば、毎月止まり(3 点)、支払に影響し(3 点)、外部の保守会社に頼んでいる(3 点)ロボットは 27 点で、最初に移す候補になります。半年に 1 回しか止まらず(1 点)、後で処理すれば済み(1 点)、社内ですぐ直せる(1 点)ロボットは 1 点で、急いで移す必要はありません。
点数が高くても、利用規約で自動操作が禁止されているサービスを操作するロボットは移せません。「自動化の前に確かめる利用規約」の手順で先に確認します。
ステップ 4:シナリオを業務の言葉で書き直す
移すときに、RPA のシナリオを 1 操作ずつ写す必要はありません。むしろ、写さないほうがうまくいきます。シナリオには、座標、待ち時間、画面要素の指定など、その時点の画面に合わせた細部が詰まっているからです。
代わりに、業務の担当者と一緒に、業務の流れを言葉で書き出します。
- 業務の目的と区切りを書く:「取引先から届いた請求書を、会計システムに登録する」
- 手順を、画面ではなく業務の単位で書く:「請求書の PDF を読む」「金額と登録番号を確かめる」「会計システムに 1 件ずつ登録する」
- 人が判断している所を書く:「保存の前に、経理担当者が内容を確認する」
- 確かめる所を書く:「登録したら、伝票番号が表示されたことを確かめる」
- 例外を書く:「登録番号が見つからない請求書は、担当者に回す」
RPA のシナリオに出てくる要素は、おおむね次のように置き換わります。
| RPA のシナリオ | AI が操作する手順 |
|---|---|
| 座標や画面要素の指定によるクリック | 「保存ボタンを押す」のように、操作の対象を言葉で書く |
| 秒数を決めた待機 | 「一覧が表示されたことを確かめる」のように、待つ条件を書く |
| 画像認識による対象の特定 | 画面の見出しや役割で対象を書く |
| Excel の最終行の検出と繰り返し | 「一覧の各行について」と書き、行ごとに処理する |
| 分岐(もし〜なら) | 条件を言葉で書き、判断が難しいものは人に回す |
| エラー時の再試行や通知 | 失敗したステップから再開し、担当者に知らせる |
書き出した手順は、作った人以外が読んでも意味が通じるかで確かめます。通じれば、それがそのまま引き継ぎの資料にもなります。
ステップ 5:PoC で確かめる
最初から最も重要な業務を選ぶ必要はありません。止まったときの影響が大きすぎず、効果が見えやすい 1〜3 件から始めると、結果を社内で説明しやすくなります。
成功の基準を先に決める
基準がないと、終わったあとに「よかったのか」を判断できません。今のロボットや手作業の数字も同じ項目で測っておきます。
- 1 件あたりの処理時間と、担当者の作業時間
- 処理できた件数の割合と、止まった回数とその理由
- 止まったときに、原因の特定から再開までにかかった時間
- 人の確認や承認に回った件数の割合
- 誤った処理の件数
- AI モデルの利用料(初回と、2 回目以降に分けて)
PoC で確かめること
- 本番と同じ画面とデータで動くか:デモ用の環境ではなく、本番と同じ画面と、本番に近いデータで動かします
- 費用と時間:一度うまくいった操作を覚えて繰り返す仕組みなら、AI を使うのは初めての操作、画面が変わったとき、画面から情報を読み取るときに限られます。初回と 2 回目以降に分けて実測します
- セキュリティ:認証情報の扱い、AI モデルに送られる情報、使うモデルを情報システム部門と確認します
- 現場で直せるか:作った人以外が手順を読み、修正できるか
ステップ 6:並行して動かし、結果を突き合わせる
PoC で効果が確かめられても、いきなり切り替えません。一定期間、古いロボット(または手作業)と新しいワークフローを並べて動かし、結果を突き合わせます。
- 期間:月末や締め日など、件数が多く例外が出やすい時期を少なくとも 1 回含める
- 突き合わせ方:登録した件数、金額の合計、登録番号などを 1 件ずつ比べ、違いを記録する
- 違いが出たら:どちらが正しいかを業務の担当者が判断し、手順を直す。古いロボットの誤りが見つかることもある
- 切り替えの条件を決めておく:「繁忙期を含む 2 回の締めで違いがなければ切り替える」のように、事前に決める
並行稼働中は、登録先のシステムに二重に登録しないよう、新しいほうは確認の手前で止める、テスト用の登録先を使う、などの工夫が必要です。
ステップ 7:切り替えと後片付け
- 古いロボットはすぐに消さない:問題が起きたときに戻せるよう、しばらくは停止した状態で残す
- 台帳を更新する:新しいワークフローを登録し、古いロボットの状態を「廃止」にする
- アカウントとライセンスを整理する:ロボット用のアカウント、保存されたパスワード、不要になったライセンスを、更新時期に合わせて整理する
- シナリオと手順書を保管する:監査や後からの確認に備えて、古いシナリオと記録を保管する
ステップ 8:社内で直せる体制をつくる
移行の目的は、ロボットを入れ替えることではなく、止まっても社内で直せる状態にすることです。
- ワークフローごとに担当者を決め、変更を確認する人を決める
- 変更は内容を確認してから反映し、履歴を残す
- 失敗や承認待ちの通知先を、個人ではなくチームにする
- すべてのワークフローの実行状況を一か所で把握できるようにする
最初の 1〜3 件で体制ができたら、ステップ 3 の点数の順に、次の業務へ広げます。
よくある失敗
- すべてを一度に置き換えようとする:対象が多すぎて PoC が終わらず、効果も見えないまま時間だけがかかります
- シナリオを 1 操作ずつ写す:古い画面の前提まで持ち込み、新しい仕組みでも止まりやすくなります
- 成功の基準を決めずに始める:結果を比べる物差しがなく、導入の判断ができません
- 並行稼働を飛ばす:繁忙期に初めて出る例外で止まり、手作業に戻すことになります
- 利用規約の確認を後回しにする:自動操作が禁止されているサービスを対象にすると、PoC の成果を本番で使えません
- 作る人だけで進める:業務の担当者と、運用・修正を担う人が関わらないと、定着しません
Kitewell での進め方
Descarty の Kitewell は、手順を業務の言葉で書き、画面の操作を AI に任せ、判断を人が承認する業務自動化ソフトウェアです。一度うまくいったクリックや入力は覚えて、次からは同じ手順で繰り返し、画面が変わったときだけ AI が操作を覚え直します。請求書の読み取りのように内容を判断する所では、毎回 AI を使います。止まったときは止まったステップから再開でき、AI アシスタントとの会話で原因の調査と修正ができます。Web ブラウザに加えて、macOS と Windows のデスクトップアプリも操作できます。
法人向けには、止まりがちなロボットを 1 本選び、2 週間で Kitewell に置き換える PoC(30 万円・税別)から始められます。合意した成功基準を満たさなければ、費用はいただきません。複数の業務をまとめて確かめる PoC も承ります。詳しくは「導入と料金」をご覧ください。
まとめ
- すべてを一度に置き換えず、止まりやすく影響の大きいロボットから移す
- 順番は、止まりやすさ、止まったときの影響、直す手間の 3 つで決める
- シナリオは 1 操作ずつ写さず、業務の言葉で書き直す。人の判断と、確かめる所を明記する
- 成功の基準を先に決めてから PoC を始める
- 繁忙期を含めて並行稼働し、決めた条件を満たしてから切り替え、台帳とアカウントを片付ける
止まる自動化を、直せる自動化へ
対象業務の候補をお聞かせください。PoC の進め方をご提案します。